スポーツを経験した人なら一度は耳にしたことがある「イップス」。
「突然思い通りの動作ができなくなる」「練習では問題ないのに本番で崩れてしまう」――そんな状況を指す言葉です。
実はこのイップス、単なる“メンタルの弱さ”ではなく、脳の働きと深く関わっていることが近年の研究で分かってきています。
この記事では、イップスの正体、スポーツごとの症例、治療や改善の可能性について解説し、最後に私自身の体験談もご紹介します。
イップスとは?
イップス(yips)は、スポーツ動作に支障をきたし、突如として思い通りに身体を動かせなくなる症状のことを指します。
代表例はゴルフのパッティング。かつてプロゴルファーのトミー・アーマーが、自著の中で「突然パットが思うように打てなくなる現象」をイップスと名付け、広く知られるようになりました。
日本語では「ショートパット恐怖症」や「よろけ」「ひきつり」といった言葉で説明されることもあります。

原因は心ではなく“脳の構造変化”
長くイップスは「緊張」や「精神的な問題」とされてきました。
しかし近年、学術的には 局所性ジストニア(職業性ジストニア) と同義で考えられ、脳の構造変化による神経疾患であることが分かっています。
- 同じ動作を過剰に繰り返すことによって脳の回路が混乱
- 思った通りの動作ができず、結果的に「動作不安」が強まる
つまり「心が原因」ではなく、「脳の変化によって体が反応しない」ことが根本にあり、その後に精神的な不安が二次的に生じるという流れです。
どんなスポーツに多い?
イップスはゴルフだけでなく、さまざまなスポーツで見られます。
- 野球:投手の制球難、捕手の返球イップス、内野手の悪送球など
- テニス:サーブのタイミングが取れない
- ダーツ:狙う前に無意識に手が動く「ダータイティス」
- 弓道・アーチェリー:「早気(はやけ)」「もたれ」と呼ばれる症状
- 卓球やボウリング:得意技が突然使えなくなる
プロ選手のキャリアを変えてしまうほど深刻な場合もあり、野球では守備位置をコンバートして対応するケースも珍しくありません。
治療法や改善の可能性
残念ながら、イップスの 明確な治療法はまだ確立されていません。
ただし、研究や臨床の現場では以下のようなアプローチが試されています。
- 感覚刺激弁別訓練:動作時に使う感覚を細かく区別し直す練習
- 運動動作解析:フォームを可視化して改善点を発見
- 筋膜リリースや重心調整:体の使い方そのものを見直す
- 動作の一時中断:該当動作をあえて避け、脳の混乱をリセット
心理的アプローチ(リラックス法や認知行動療法)も補助的に使われていますが、根本は「脳と身体の再調整」がカギと考えられています。
筆者の体験談:突然訪れた“投げられない恐怖”
実は私自身もイップスを患っています。
学生時代までは普通にできていた野球の投球動作が、社会人になって急にできなくなってしまいました。これは私にとって大きなショックでした。
その後、社内のソフトボール大会や、趣味のテニスで練習球を手渡すシーンなど、「投げる」という動作が必要な場面になると、必ず恐怖心にかられるようになりました。
「またうまく投げられなかったらどうしよう」――そんなトラウマが頭をよぎり、直前には「こう投げれば、こういう軌道で飛んでいくはずだ」と必死にイメージを描いてから投げます。
それでも実際には、思った通りのリリースができず、ボールが手前でバウンドしたり、狙った方向から大きく外れてしまうことがあります。
今もなお完全には克服できておらず、この症状と付き合い続けています。

まとめ
イップスは決して珍しいものではなく、多くのスポーツ選手や愛好者が直面する現象です。
- 脳の構造変化による神経疾患であり、心の弱さではない
- ゴルフや野球だけでなく、多くのスポーツに存在する
- 治療法は研究途上だが、改善の糸口は少しずつ見えてきている
私のように「以前はできていたことが急にできなくなった」という経験は、強いショックやトラウマを伴います。ですが、同じ悩みを抱える人は少なくありません。
まずは「自分だけの問題ではない」と知ること、そして必要であれば専門の医療機関やリハビリ施設に相談してみることが大切だと感じています。
👉 この記事を読んで「もしかして自分もイップスかも」と思った方は、ぜひ一人で抱え込まず、専門家に相談してみてください。
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