はじめに:なぜ「シェア」が注目されるのか
近年、自動車業界を語る際に必ず登場するキーワードに CASE(Connected / Autonomous / Shared / Electric) があります。
この中で “S(Shared/シェアリング)” は、所有から共有へという価値観の転換を象徴する要素です。トヨタもモビリティ事業において「Connected・Shared」サービスの強化を掲げています。トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト+2toyota-recruit.com+2
本記事では、「シェア(特にカーシェアリング・サブスクリプション含む)」の現状、メリット・課題、将来展望を整理し、自動車購入やモビリティ選択を考えるうえでのヒントを提供します。
シェア/カーシェアの定義と類型
まず、用語の整理をしておきましょう。
- レンタカー:一定期間・一定料金で借りる従来型のサービス
- サブスクリプション / リース型サービス:月額定額で車を利用できる。契約期間内で複数車種を乗り換えられるタイプもある
- カーシェアリング:短時間・短距離の利用を想定し、ステーション(拠点)から車を借りて返却する。いわゆる「ちょい乗り」需要向け
これらは重なりつつも、利用時間・頻度・契約形態・価格構造が異なります。
自動車業界における “シェア” は、特に カーシェアリング や将来的には 自動運転+シェア の融合を指すことが多いです。自動運転ラボ+2aconnect.stockmark.co.jp+2
国内・世界の最新動向:カーシェア市場の拡大傾向
国内の統計・トレンド
- 2024年3月時点で、日本国内の貸渡車両数は 約67,199両、会員数は 約4,695,761人 に達し、前年度比で車両数は約19.6%増、会員数は約50%増。ステーション(拠点)数も 26,797 箇所と、前年比約17.6%増加。ecomo.or.jp+2カーシェアリングを探すなら! | カーシェアリング比較360°+2
- 国内市場規模(売上高ベース)は 2023年時点で 約 700〜800 億円 と推計され、前年比約20%の成長。2024年には 900 億円規模へ拡大した可能性もあるとの見方。くるまマイスター検定(くる検)
- 矢野経済研究所の予測では、2030年に国内カーシェアリング市場は 1,500 億円超 に達する見込み。市場調査とマーケティングの矢野経済研究所+1
- レンタカー市場と合わせた調査では、2030年のレンタカー市場は 1 兆円超、カーシェアは 1,500 億円超という見方。市場調査とマーケティングの矢野経済研究所+1
- ただし、国内での普及度(自動車所有者数との比較)はまだ限定的とされており、地方部などでは依然として自家用車必須という地域も多く残るとの指摘もあります。NECソリューションイノベーターズ+1
世界・グローバルな見通し
- グローバルなカーシェアリング市場規模は、2024年に約 89 億米ドル(USD) に達しており、2025〜2033年の年平均成長率は約 11.8% と予測。2033年には 244 億米ドルに達する見込み。IMARC Group
- また、別の調査では 2024~2029 年の CAGR を 20% 近くと予測するケースもあります。Mordor Intelligence
- 世界的には AI・最適化アルゴリズム、車両管理/需要予測、モビリティ統合(MaaS)との連携などが、事業者競争力の鍵になると見られています。parseur.com+2fptsoftware.jp+2
これらのデータから、カーシェアリングを中心としたシェア型モビリティは、今後も強い成長軌道を描く可能性が高いといえます。
シェアのメリット・デメリット(所有車・レンタカーとの比較)
以下は「自家用車/レンタカー/カーシェアリング(シェア利用)」を、特にコスト面を中心に比較した際のメリット・デメリット(私見を含む)です。
| 項目 | 自家用車 | レンタカー | カーシェアリング / サブスク型シェア |
|---|---|---|---|
| 初期購入費用 | 高額(車両本体価格) | 0 | 0 |
| 駐車場代 | 常時必要(自宅・月極) | 利用時のみ | 利用地点により不要または少額 |
| 保険・整備・車検 | 所有者負担 | レンタカー業者負担 | 運営事業者負担(利用者には利用料で転嫁) |
| 自動車税・重量税 | 所有者負担 | 業者負担 | 運営事業者負担 |
| 維持費(燃料・消耗品) | 所有者負担 | 利用時間分 | 利用時間・距離分 |
| 利便性・自由度 | 高い(いつでも使える) | 利用予約や受け取り返却制限あり | ステーションアクセス依存、予約必要、利用可能時間制限あり |
| 所有の満足感 | 得られる | なし | なし |
| 利用頻度が低いときのコスト効率 | 効率が悪い | 利用分だけ支払う | 利用分だけ支払う |
| 長距離利用・旅行 | 向く | 得意 | 距離制料金、乗り捨て制限がある場合もあり制約あり |
| 柔軟性(乗り換え等) | 低い | 車種選択の自由あり | 一部サービスで複数車種対応、乗り換え可能なタイプもあり |
(注:上記表では、コスト削減・負担軽減要素を特に “メリット” として、逆に制約や不便を “デメリット” として把握しています。)
筆者意見としては、「普段の足 → カーシェアリング」「遠出・旅行など → レンタカー/サブスク型シェア」という使い分けが合理的と感じます。ただし、居住地域・交通インフラ・利用パターン次第で最適解は変わるでしょう。
現在の課題と技術的・制度的ハードル
カーシェアリングやシェア型モビリティは有望ですが、次のような課題・リスクも存在します。
課題・ハードル
- ステーション(拠点)数の偏在・不足
都市部には多く展開されていますが、地方部では未整備な地域が多く、「最寄りステーションまでのアクセス」がネックになる場合があります。RentaCarCast (レンタカーキャスト)+2NECソリューションイノベーターズ+2 - 自動運転との統合・自動化
将来的には、無人車両(自動運転車)をシェア車両として活用する構想もあります。しかし、日本では法制度・安全性確保の観点から、まだ実用化には至っていません。CREX – CREXコーポレートサイト+3NECソリューションイノベーターズ+3自動運転ラボ+3
また、自動運転シェア車を導入した場合、空車移動(配車のための走行)による交通混雑リスクも指摘されています。arXiv+1 - 収支・採算性の課題
初期投資、車両運用コスト、メンテナンスコスト、稼働率の確保など、事業者側には厳しい収支環境があります。特に、利用需要が十分でない地域では成り立ちにくいという懸念があります。fptsoftware.jp+1 - 法制度・規制
日本では、ライドシェア(相乗り型配車サービス)は原則として道路運送法により規制されています。これにより、Uber・Lyft のような一般車両による相乗り事業は限定的です。aconnect.stockmark.co.jp+2NECソリューションイノベーターズ+2
また、地方自治体の条例や土地利用規制、駐車場活用の制約も影響を与えます。 - ユーザー側の心理的ハードル
「自分専用の車がない不安」「利用時に空車がないリスク」「車両の状態・清潔さへの懸念」など、利用を躊躇する要因もあります。 - 電動化(EV)との整合性
シェア車両が EV である場合、充電インフラ整備、電池管理、V2G(Vehicle-to-Grid=車両を電力網に還元する技術)との連携などが技術的に複雑化します。実際に、カーシェアにおけるV2G モデルの可能性をシミュレーションした研究もあります。arXiv
将来展望と見通し:自動運転 × シェアという次のステージ
シェア型モビリティの未来像として、以下のような展開が期待されます。
自動運転シェア車(Shared Autonomous Vehicles, SAVs)
- 将来的には、自動運転車を無人で運行させ、必要なときに配車・利用できるモビリティが構想されています。これにより、ステーション infrastructure に縛られず、目的地近くでピックアップできるようなサービスが実現する可能性があります。
- ただし、空車走行(乗客を拾う前後の移動)が発生し、渋滞・エネルギー消費の増大につながるリスクも、研究によって指摘されています。arXiv
- また、需要予測・最適配車アルゴリズム、バッテリー管理、自律走行車両の安全性確保と法整備など、技術・制度双方の整備が必要です。
MaaS(Mobility as a Service)統合との連携
- 鉄道・バス・自転車・タクシー・シェア車両を統合した移動サービス (MaaS) において、シェア車両は最後の“ラストマイル”を担う存在として重要視されています。
- アプリ連携、料金一体化、ルート提案最適化、乗り換え案内などが高度化すれば、ユーザー視点での利便性が大きく向上します。
- 将来的には、公共交通とシェア交通の融合が進み、「移動手段を個別で考える時代から、モビリティを包括的に最適化する時代」へ移行する可能性があります。
環境・エネルギーとの融合
- 電動化(EV/BEV/FCV)との融合は不可欠で、CO₂排出抑制や都市の空気質改善といった社会的意義も期待されます。
- また、V2G 技術を活用することで、シェア車両が余剰電力を電力網に還元するような機能を持つ可能性も研究段階で議論されています。arXiv
- こうした方向性は、再生可能エネルギー活用やスマートグリッド構成とも親和性が高いと考えられます。
自動車購入・利用の観点からのアドバイス
この記事を読まれている方の中には、「これから車を買う/買い替えるかどうか」を検討している方も多いでしょう。以下、シェア型モビリティ時代を見据えた考え方のヒントをお伝えします。
- 利用頻度・用途をよく見極める
通勤・買物・送り迎えといった日常的な用途と、旅行・遠出用途を分割して考えるとよいでしょう。日常用途はシェアに任せ、遠出用途だけ所有車やレンタカーを使うという組み合わせも合理的です。 - 居住地域・交通環境を重視する
都市部・駅近・駐車場が割高な地域であれば、カーシェア活用のメリットは大きくなります。一方、地方部・公共交通の少ない地域では依然として自家用車が不可欠というケースも多いです。 - 将来性を加味した選択
これから車を買う・契約するなら、シェア利用を前提に考えた車種選び(燃費性能・維持性・電動化対応性)や、将来シェア型モビリティに供給可能な仕様を持つ車を選ぶという発想も有用です。 - リスク分散を意識する
自動車という固定資産を丸ごと所有するリスクを抑えたい場合、所有 vs シェアを併用するスタイルも検討価値があります。 - 情報収集を怠らない
各カーシェア/サブスクサービスの料金形態、ステーション展開、車種ラインナップ、会員制度などは頻繁に改定されやすい部分です。利用前に最新条件を確認することをおすすめします。
まとめ:シェアが変えるモビリティの未来
- “シェア(Shared)” は、CASE の中で最も生活者に近い形で影響を及ぼす要素であり、所有から共有という価値観の変化を象徴します。
- 国内外ともにカーシェアリング市場は堅調に拡大中であり、将来的には自動運転との統合、MaaS 連携、電動化融合などが進む可能性があります。
- 一方で、拠点整備、利用需要確保、法制度、収益性、安全性確保といった課題も無視できません。
- 利用者視点では、用途・居住環境・将来性を踏まえた上で、所有・シェア併用の最適解を検討することが重要です。
この記事が、自動車業界の動向を学ぶヒントや、あなたの次の車選び・モビリティ戦略を考える契機になれば幸いです。

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