— 主要構成部品に焦点を当てて —
電気自動車(EV)市場が加速度的に拡大する中、前回の記事ではBYDとTeslaの“どちらを選ぶか”という観点から、それぞれの特徴と今後の展望を整理しました。今回は、それをさらに掘り下げ、「バッテリー・モーター・マイコン(ECU/半導体)」という主要構成部品に焦点を当て、部品サプライチェーンの変化や競争環境の最新動向を整理します。
1.なぜ“マイコン(ECU/半導体)”が今、自動車業界の鍵なのか?
まず背景整理から。
- 自動車産業において、部品不足が世界的に話題となりました。特に、新型コロナウイルス感染症の長期化、ウクライナ紛争の勃発などによってサプライチェーンが急速に混乱し、原材料(金属・プラスチック・レアアース)、半導体・マイコン(自動車用ECU)などが不足し、自動車の生産調整を余儀なくされたことがありました。
- 自動車1台あたりに搭載される電装品/ECU(Electronic Control Unit)数が年々増加しています。例えば、車載電子制御ユニット市場レポートでは「2035年には市場規模が約1,200〜2,500億ドルに達する」との予測があります。アライドマーケットリサーチ+2researchnester.com+2
- また、車が単なる移動手段から「ソフトウェア定義車(Software-Defined Vehicle)」「CASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)」時代に移行する中で、マイコン(CPU, GPU)やECU/車載コンピュータ、センサー、モジュールが車両の“頭脳・神経”になると言われています。
したがって、EVメーカーにとって「バッテリー・モーター」と並んで「マイコン/半導体/ECU」の確保・制御・最適化が今後ますます重要な競争軸になるのです。
2.BYDとTesla、それぞれの部品戦略と最新動向
それでは、BYDとTeslaの“部品戦略”を最新情報を交えて整理します。
(1)BYDの部品/サプライチェーン戦略
- BYDは「垂直統合(Vertical Integration)」を強く打ち出しており、自社で部品製造をかなりカバーしています。例えば、最近の報道によると「約75 %の車両部品を社内で製造」との記述があります。テクノロジーマガジン+1
- さらに、BYDは独自開発した「AIチップ」や「スマートドライビング用チップ」を手掛けており、例えば「80 TOPS(トリリオン操作/秒)レベルのスマートドライビングチップを保有」などという報道もあります。AInvest+1
- これにより、米国による半導体輸出規制・対中制裁など、グローバルな供給網リスクに対しても一定の備えをしているとされています。AInvest+1
- また、BYDのバッテリー/モーター/電装系の統合力と合わせて、部品面から“コスト・供給・設計自由度”の面で強みを持ちつつあると言えます。
(2)Teslaの部品/サプライチェーン戦略
- Teslaはバッテリー(パナソニック/LG/自社)・モーター・充電インフラ・OTAソフトウェアなどで先行優位を保ってきました。
- ただし、部品調達・半導体/チップの確保において、BYDと比較して“垂直統合比率”が低いという分析もあります。BYD75%に対して、Tesla(中国上海製Model 3ベース)では約46%という数値もあります。テクノロジーマガジン
- EVが高度化する中で、マイコン・車載コンピューティング性能・車載AI/自動運転機能などが今後の差別化要因となるため、Teslaもこの領域での強化が課題となっています。
3.「主要部品競争」がEV普及/自動車業界再編を左右する理由
上記を踏まて、なぜ「バッテリー・モーター・マイコン(ECU/チップ)」が“テスラかBYDか”を分ける鍵になるのかを整理します。
バッテリー
- 既に前回も触れた通り、BYDの「ブレードバッテリー」など、バッテリー設計・安全性・コスト競争力で優位を持つモデルが出てきています。
- EVが普及するにあたり、バッテリーコスト低減、長寿命化、リサイクル、原材料調達などが今後のボトルネックになり得ます。
モーター・駆動系
- EVではモーター・インバーター・駆動制御の効率化が重要です。車両重量、出力、航続距離、加速性能、安全性などに直結します。
- 車両設計の自由度(例えば、バッテリーパックを車体構造の一部に使えるBYDの設計)などもモーター・駆動系の設計と密接に関連しています。
マイコン(ECU/半導体)
- 車載コンピューティングや制御系が高度化する中、ECUやドメインコントローラ、車載チップの能力・数・統合度が上がっています。
- 例:車1台に搭載されるECU数が増加傾向にあり、「100台以上」という報告もあります。ウィキペディア+1
- 市場規模:ECU市場は2035年までに約1,200〜2,500億ドル規模になると予測されており、これは電装品というカテゴリーの中で極めて重要な位置を占めています。Future Market Insights+1
- さらに、グローバルな半導体供給網(米中摩擦、輸出制限、レアアース・素材調達)というマクロな構造変化が、メーカーの部品確保・競争優位に影響を及ぼしています。
- 例えば、中国メーカーが半導体自給を進めている、という報道もあります。AInvest+1
- 結果として、「マイコン・チップを自社または安全な調達網で確保できるか」が、次世代EV設計・コスト構造・競争力に直結しています。
4.「テスラ vs BYD」の部品戦争:勝機とリスク
この部品視点で両社を比較すると、以下のような構図が見えてきます。
BYDの勝機
- 垂直統合/自社部品化(75 %近く)によって、供給網の混乱・部品価格の上昇・外部リスクをある程度抑えられている。
- 半導体チップ・スマートドライビングチップなども手掛け、自社で“頭脳・制御系”を一定確保している。
- バッテリー・モーター・電装のトータル最適化に注力しており、コスト競争力・設計自由度・スケールメリットを生かしやすい。
BYDのリスク/課題
- ただし、マイコン・チップの“グローバル最先端”技術(例:車載AI、GPU/自動運転用演算)で、米・欧・日本の半導体事業体・設計能力を完全に超えているわけではないという指摘もある。
- また、グローバル市場展開・ブランド認知・サービス・リセールバリューなど、Teslaに比べると“プレミアムブランド”としての地位がやや弱い部分があります。
- さらに、EV市場の成長鈍化や中国国内の“過剰生産・政策見直し”リスクも注視されるべきです(中国が2026-2030年の五カ年計画からNEVを戦略産業から外したという報道もあります)Reuters
Teslaの勝機
- ブランド力・先進ソフトウェア(OTA・自動運転支援)・グローバル充電インフラなど、“車+ソフトウェア+ネットワーク”での優位が依然存在。
- モーター・駆動系・航続距離・グローバル販売・充電インフラなどで先行しており、これらが顧客にとって“安心材料”になる。
- 製品ライフサイクル・アップデート・ソフトウェア追加機能など“車を買って終わりではなく、進化する車”という点で差別化。
Teslaのリスク/課題
- しかし、供給部品(特にマイコン・半導体・チップ)でBYD等中国勢に比して“自社率・調達柔軟性”がやや低いという分析があります。
- また、低価格量販モデルやコスト競争力という点で、今後中国勢/新興勢に押される可能性があります。
- EV普及段階が次フェーズへ移行する中で、“部品戦争”において追いつかれるリスクがあります。
5.今後の自動車業界で注視すべき“部品・構成要素”トレンド
最後に、部品・構成要素の観点から、今後自動車業界を読む上で抑えておくべきトレンドをまとめます。
- 統合型ECU/ドメインコントローラ化:車載ECU数が増え続けると、配線・ハーネス・部品点数が複雑化します。これを抑えるため、車両の電子/電装構造が“ゾーン型・ドメイン型”アーキテクチャへ移行中です。fptsoftware.com+1
- 半導体/マイコン供給網の地政学リスク:米中貿易摩擦・輸出規制・素材(レアアース・リチウム・コバルト)確保などが、EV部品・製造における重要なハードルです。Kleinman Center for Energy Policy
- 垂直統合 vs パートナーシップ:どこまで部品を自社で確保するか、どの領域で外部・専業サプライヤーを使うか、が競争力に直結。
- ソフトウェア定義車/アップデート可能な車両:ハードであるバッテリー・モーターだけでなく、ソフトウェア・マイコン・通信・OTA更新など“車を進化させる要素”が差別化ポイントになります。
- コスト・量産・スケールメリット:EVが主流化するにあたり、各構成部品(特にバッテリー・モーター・半導体)のコスト低減がカギ。大量生産体制・調達規模・部品点数削減が重要。
- サービス・リセールバリュー・充電インフラとの連動:車両本体だけでなく、部品交換・ソフト更新・充電ステーション・二次電池活用など、エコシステム視点での設計が求められます。
6.まとめ
今回、「(続)テスラか、BYDか」という観点を“主要構成部品(バッテリー・モーター・マイコン)”という切り口で整理してみて、以下のように感じます:
- 自動車業界の“構造変化”が進んでおり、特にEV/スマート車両の普及フェーズでは「部品・構成要素」を制する者が競争優位に立つ可能性が高い。
- BYDは部品面(垂直統合・マイコン開発・バッテリー設計)で強みを持ち、部品供給・設計自由度という点で優位を築いている。
- Teslaはブランド・ソフトウェア・充電インフラという“車+サービス”の側面で優れていますが、部品調達・コスト競争・量産・部品統合という点では追われる立場とも言えます。
- 今後、EVを購入・検討する消費者・法人にとっては、「この車が何を積んでいるのか(部品構成・制御系・ソフト対応)」「この車の将来性(ソフトアップデート・部品交換・サービス展開)」「その部品・構成を誰がサプライ・管理しているのか」が判断材料として重要になります。
- 特に日本市場では、部品・製造地・充電インフラ・サービス体制・将来の補修部品確保可能性などを含めて“部品視点”でモデル選びをするのが賢明です。
以上、本記事を通して、皆さまが自動車選び・EV市場の動向を考えるうえで、“部品構成”という観点を加えていただければ幸いです。

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