近年、全国で深刻化するクマ被害。2024年は死者13名(11月7日時点)と過去最悪となり、秋田県には自衛隊が派遣される事態にまで発展しました。都市部でも目撃が相次ぎ、東京都でもクマが出没するなど、私たちの生活圏に危機感が高まっています。
そんな中、SNSでは“熊肉(くまにく)”がにわかに注目を集めています。
「駆除したクマを食べれば、被害対策になるのでは?」という議論も巻き起こっていますが、果たして本当に解決につながるのでしょうか?
本記事では、話題のクマ食ブームの背景、メリット・問題点、専門家の見解、最新の自治体動向をまとめ、筆者の視点も交えて解説します。
■ SNSで大バズり!ツキノワグマ串焼きが1300万閲覧突破
きっかけは2024年10月末、X(旧Twitter)に投稿された1枚の写真。
青森県の道の駅イベントで販売された**「ツキノワグマ串焼き(2本800円)」**が大きな話題となりました。
投稿者の実食レビューでは、
「臭みがなくホロホロで美味しい。羊肉に近い」
と意外な高評価を得て、8.7万いいね、1,300万超の閲覧に。
インパクトと時事性が相まって、テレビやネットニュースでも取り上げられました。
これを受けてSNS上には、
- 「もっと普及すればクマ被害減るのでは?」
- 「美味しいなら捕獲が進むはず」
- 「うなぎみたいに高級化する未来がある?」
など、“クマを食べて解決”論が急浮上。
しかし、現場の声はそこまで単純ではありません。
■ 熊肉はどうやって仕入れている? 青森・白神山地の取り組み
クマ串を販売していたのは、青森県西目屋村の一般財団法人 ブナの里白神公社。
同村では2020年に食肉処理施設「ジビエ工房白神」を開設し、“白神ジビエ”としてクマを商品化しました。
仕入れ方法は「罠にかかったクマのみ」
- クマ肉は村内の箱罠にかかった個体のみ使用
- 肉は体重の50〜60%程度しか取れない
- 皮は熊革製品に活用
- 積極的に狩るのではなく、村民保護の延長
背景には、古くから根付くマタギ文化があります。
本来、クマは「山の恵み」として感謝して食す存在。
罠で捕獲したクマを廃棄することに地域として抵抗があり、「命を無駄にしない」文化の継承も目的だといいます。
同公社によると収益性はあるものの、食肉処理施設の運営には許可やコストがかかり、全国普及は簡単ではないとのこと。
■ 都内のジビエ店にも聞いた「クマ食普及の壁」
東京のジビエ店「マタギ東京」によると、クマ肉には普及の課題が多いといいます。
普及しない4つの理由
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| ① 捕獲が難しい | 一撃で仕留めないと肉に臭みが出る。量が安定しない |
| ② 部位が少ない | 食べられる肉は総量の一部 |
| ③ 調理が難しい | 個体差が大きく、クセ・風味がまちまち |
| ④ 食中毒リスク | トリヒナ(旋毛虫)対策で許可施設での処理 & 十分な加熱が必須 |
価格は牛・豚より高くなり、一般家庭では扱いにくい食材。
つまり、「食べて解決」は現実的ではないという見解です。
■ クマ食はクマ被害対策になるのか?
結論は、
✅ 一定の意味はあるが、根本解決にはならない
期待される効果(メリット)
- 廃棄していた命を活用できる
- 地域振興・観光の新たな資源になる
- マタギ文化の継承につながる
一方での懸念(デメリット)
- “乱獲”による生態系バランス悪化
- 需要拡大が駆除圧につながる可能性
- クマは人間の活動環境変化が出没増加の最大原因(森林環境の変化、餌不足、人間領域の拡大)
つまり、クマ食ブームが広がり、利益目当ての狩猟が増えれば、逆に自然破壊につながりかねません。
■ 2025年現在の最新動向:自治体の対策は「駆除より共存」にシフト
2024〜2025年にかけて、国・自治体は「根本的なクマ対策」に乗り出しています。
最新の主な施策(2025年)
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| AIによるクマ出没予測 | 秋田・岩手で実証実験中 |
| ドローンでの生息調査 | 北海道や東北で導入 |
| 電気柵設置補助金 | 農家向け支援が拡大 |
| 山林の餌資源回復 | ブナ・ドングリ等の植生回復プロジェクト |
| 「人里に近い森林帯」の整備 | 緩衝帯を作りクマが降りてこない環境整備へ |
食べるかどうかよりも、人と熊の距離を適切に戻す取り組みが進められています。
■ 筆者の視点:クマを食べることに“抵抗感”はある?
ここからは個人的な意見です。
ジビエとして命を無駄にしない考え方には賛成ですが、
正直なところ、
「人を襲った可能性のあるクマを食べる」
という点には、心理的な抵抗感を覚えます。
食材としての魅力は理解できますが、「恐怖の対象でもある動物を食す」という感覚が拭えない人も多いのではないでしょうか。
ただ、マタギ文化の根底にある“山の恵みをいただく”という価値観は、日本がこれから自然との共生を考える上でヒントになると感じます。
■ まとめ:クマ食は「解決策」ではなく“自然との向き合い方”の問い
- クマ食が話題だが、普及には現実的な壁が多い
- クマ被害の根本要因は生態系バランスの崩れ
- “駆除して食べる”は一部効果はあっても、解決策にはならない
- 真の対策は、自然との距離感を適正に保つ仕組み作り
クマ食ブームは、私たちに**「自然とどう共存するべきか?」**を問いかける現象だと言えます。

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