「レアアース(希土類)」と聞くと、EVやスマートフォン、AI、最先端半導体など、現代社会を支える“縁の下の力持ち”を思い浮かべる人も多いでしょう。
そのレアアースを、「日本近海の深海6000mから回収することに、世界で初めて成功した」そんなニュースが注目を集めています。
今回の舞台は、日本の最東端・南鳥島沖。
内閣府主導の研究プロジェクトと東京大学の研究チームが挑んだのは、「レアアース泥」と呼ばれる深海資源の回収です。
これは単なる技術実験にとどまらず、日本の資源安全保障を左右する可能性を秘めた出来事とも言えます。
レアアース泥とは?なぜ注目されているのか
レアアースは17種類の元素の総称で、以下のような製品に不可欠です。
- EV(電気自動車)のモーター
- 風力発電設備
- スマートフォン・PC
- 軍事・宇宙関連技術
しかし問題は、その供給の偏りにあります。
現在、日本が輸入するレアアースの7割以上を中国に依存しており、地政学リスクや輸出規制の影響を強く受けやすい状況です。
そこで注目されているのが、2011年に発見された南鳥島沖のレアアース泥。
推定埋蔵量は約1600万トンともされ、中国・ブラジルに次ぐ世界第3位規模とされています。
世界初の回収成功!カギを握るのは「ちきゅう」と超深海技術
今回の最大の成果は、技術的に極めて困難とされてきた「回収」に成功した点です。
使用されたのは、地球深部探査船「ちきゅう」。
回収プロセスの概要
- 探査船を洋上で静止
- 約10mのパイプを600本連結
- 海底6000mにパイプを到達させ、無人機で先端部を操作
- 海水を送り込み、海底の泥をかくはん
- レアアース泥を海水とともに船上へ吸い上げる
この一連の作業を安定的に実施できたこと自体が世界初であり、岡部徹教授(東京大学)は
「研究の第一歩として、技術的には非常に大きな成果」と評価しています。
国内生産は「10年以上先」現実的な課題とは
一方で、期待が高まる国内生産については、慎重な見方も示されています。
岡部教授は次のように指摘します。
- 回収後の泥から不純物を除去する工程が不可欠
- 精錬・分離を行うプラント化に長い時間とコストがかかる
- 商業生産までは10年以上を見込むべき
つまり、今回の成功は「ゴール」ではなく、スタートラインに立った段階と言えるでしょう。
レアアース市場の現状:なぜ中国一強なのか
最新データ(2025年時点)によると、レアアース市場は依然として中国が圧倒的な存在感を示しています。
世界のレアアース埋蔵量
- 中国:48.9%
- ブラジル:23.3%
- インド:7.7%
生産量シェア
- 中国:69.2%
- アメリカ:11.5%
- ミャンマー:7.9%
精錬シェア
- 中国:91%
中国が強い理由は、環境負荷や安全基準を抑えた低コスト精錬を長年続けてきた点にあります。
日本で同様のコスト競争を行うのは簡単ではありません。
「自国生産」か「調達先分散」か、日本の現実的な選択肢
岡部教授は、次のような選択肢も示しています。
- 高コストを許容し、自国生産を進める(アメリカ型)
- 中国以外の国(豪州、アフリカ、東南アジアなど)からの調達を拡大
- 国内回収技術を戦略カードとして保持する
実際、日本政府は近年、
- 重要鉱物の国家備蓄
- レアアースのリサイクル技術
- 同盟国とのサプライチェーン連携
を並行して進めており、「完全自給」ではなくリスク分散型戦略が現実路線とされています。
筆者の見解:これは「資源を持つ国」への転換点か
現在、その多くを中国に依存しているレアアースですが、南鳥島のレアアース泥は、日本を“潜在的資源大国”に変える可能性を秘めています。
確かに、商業化までは10年以上かかる見通しです。
しかし今回の回収成功は、
- 技術的な実現性を示した
- 国際交渉における交渉カードになり得る
- 将来世代への「選択肢」を残した
という点で、極めて大きな意味を持ちます。
試行錯誤を重ね、この期間が少しでも短縮されることを期待したいところです。
「持たざる国」から「選べる国」へ――その第一歩が、今、深海から引き上げられました。

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