今回は映画「21世紀の資本」についてです。フランスの経済学者であり原作者のトマ・ピケティ出演作品です。
ストーリー;
資本主義の特徴は、資本の効率的な配分であり、公平な配分を目的としていない。そして、富の不平等は、干渉主義(富の再分配)を取り入れることで、解決することができる。これが、本書の主題である。資本主義を作り直さなければ、まさに庶民階級そのものが危うくなるだろう。
議論の出発点となるのは、資本収益率(r)と経済成長率(g)の関係式である。rとは、利潤、配当金、利息、貸出料などのように、資本から入ってくる収入のことである。そして、gは、給与所得などによって求められる。
過去200年以上のデータを分析すると、資本収益率(r)は平均で年に5%程度であるが、経済成長率(g)は1%から2%の範囲で収まっていることが明らかになった。このことから、経済的不平等が増していく基本的な力は、r>g という不等式にまとめることができる。
すなわち、資産によって得られる富の方が、労働によって得られる富よりも速く蓄積されやすいため、資産金額で見たときに上位10%、1%といった位置にいる人のほうがより裕福になりやすく、結果として格差は拡大しやすい。また、この式から、次のように相続についても分析できる。すなわち、蓄積された資産は、子に相続され、労働者には分配されない。
たとえば、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのベル・エポックの時代は、華やかな時代といわれているが、この時代は資産の9割が相続によるものだった。また、格差は非常に大きく、フランスでは上位1%が6割の資産を所有していた。
一方で、1930年から1975年のあいだは、いくつかのかなり特殊な環境によって、格差拡大へと向かう流れが引き戻された。特殊な環境とは、つまり2度の世界大戦や世界恐慌のことである。そして、こうした出来事によって、特に上流階級が持っていた富が、失われたのである。また、戦費を調達するために、相続税や累進課税の所得税が導入され、富裕層への課税が強化された。さらに、第二次世界大戦後に起こった高度成長の時代も、高い経済成長率(g)によって、相続などによる財産の重要性を減らすことになった。
しかし、1970年代後半からは、富裕層や大企業に対する減税などの政策によって、格差が再び拡大に向かうようになった。そしてデータから、現代の欧米は「第二のベル・エポック」に突入し、中産階級は消滅へと向かっていると判断できる。
つまり、今日の世界は、経済の大部分を相続による富が握っている「世襲制資本主義」に回帰しており、これらの力は増大して、寡頭制を生みだす。
また、今後は経済成長率が低い世界が予測されるので、資本収益率(r)は引き続き経済成長率(g)を上回る。そのため、何も対策を打たなければ、富の不平等は維持されることになる。科学技術が急速に発達することによって、経済成長率が20世紀のレベルに戻るという考えは受け入れがたい。我々は「技術の気まぐれ」に身を委ねるべきではない。
不平等を和らげるには、最高税率年2%の累進課税による財産税を導入し、最高80%の累進所得税と組み合わせればよい。その際、富裕層が資産をタックス・ヘイヴンのような場所に移動することを防ぐため、この税に関して国家間の国際条約を締結する必要がある。しかし、このような世界的な課税は、夢想的なアイディアであり、実現は難しい。
あらすじ;
1961年、ドイツのベルリンに突如、東西を隔てる壁が建てられ、ドイツは米英仏の統治する資本主義の西ドイツと、ソ連が統治する社会主義の東ドイツに分けられた。
国家が経済を管理する社会主義国になった東ドイツの人々は戸惑い、西ドイツに逃げようとしていた。当時は、自由競争で個人や企業が利益を追求できる資本主義が指示されていたからだ。
ベルリンの壁が崩壊する1989年までの間、多くの市民が逃亡の際に命を落としてきた。フランスに住む「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティもベルリンの壁の崩壊で受けた衝撃は忘れられないと言う。
そして現代、資本主義国では格差問題が深刻化している。ピケティは「18世紀から19世紀にかけて起こった凄まじい格差社会が、今まさに復活しているのだ」と宣言する。
そもそも、資本の歴史とはいったいどのようなものなのだろうか。18世紀のヨーロッパでは、一部の貴族が資本を蓄え国を支配していた。出世も結婚もお金次第。金貸しで資金を増やし、土地を買い占め、資本と権力は代々相続されてきたのだ。
18世紀のイギリスでは女性に相続権はなく、豊かな財政の男と結婚するのが幸せとされ、身分の差が問われる時代だった。
19世紀初めのパリでは、ブルジョア層と民衆の貧富の差が大きく、絶対王政に苦しむ民衆による平等と自由を求めた革命が続いた。
18世紀中頃からイギリスでは、産業改革が進む。産業改革は資本主義生産様式を確立させるが、労働者は無権利で保証がなく、やはり格差を生み出し、労働者の地位向上を求めストライキが頻発した。
格差社会を逃れようと多くの難民がオーストラリアやカナダへと向かうが、待っていたのは、植民地における奴隷制度、広大な土地を所有する金持ちの支配だった。
鉄道、大量生産、鉱山資源など、世界中に広がる産業革命は、1914年に世界大戦を引き起こすこととなる。第一次世界大戦は、愛国心を煽った資本の取り合いの戦争だった。
戦いに勝ったアメリカでは、一攫千金を狙った成金たちが裕福層にのし上がる。酒の密輸に株の売買、銀行マンの悪徳取引など。
1930年前後、バブルがはじけアメリカニューヨークを皮切りに世界恐慌が起こる。ウォール街の株価大暴落、金融崩壊、貿易戦争による倒産、失業が襲い掛かった。
農業不況のなか、機械化で儲けようとする資本家たちが、貧困農民層を立ち退かせるという横暴ぶりも、自国の経済を衰退させていった。
1931年大統領に就任したルーズベルトが大規模なインフラ政策に乗り出し、地域開発に力を入れ、雇用と経済成長を促した。
世界恐慌は資本主義国の経済に大きな打撃を与えた。植民地を持つ大国イギリス、フランスはブロック経済を、日本など植民地を持たない国は新たな資源を求め侵略行為に走ることとなる。
一方、ドイツは第一次世界大戦の敗北により多額の戦争賠償を支払わされ、貧困に陥いっていた。ハイパーインフレと呼ばれる状態では、樽一杯の紙幣でもパン一斤すら買えなかった。
1933年、アドルフ・ヒトラーが首相へ就任。ナチズムにより国民のあらゆる活動を統治し、義務付けることで結束をはかった。1939年、そのファシズムは世界を巻き込む第二次世界大戦の火種となった。
1945年、第二次世界大戦は終戦を迎えた。多くの犠牲を払った人々は互いの人間性を尊重し合う啓蒙主義に目覚める。資本を破壊し、国債の価値を下げ、社会の力関係を変えた。医療制度の見直し、平等な学校教育、労働者のための福利厚生など平等性が求められた。勤勉さと努力で、豊かな生活も地位も築ける世の中。中産階級の誕生だ。
そして、世界は高度経済成長期へと移り変わる。資源開発、技術革新、豊富な労働力、貯蓄率の向上、人々は快適な生活を手に入れたかのようだった。
1948年から勃発したイスラエルとアラブ諸国の中東戦争は、約30年間にも及んだ。第四次中東戦争を機にアラブ産油国からの石油が高騰し、世界で高インフレが起こる。
世界はオイルショックを経て、グローバル化していく。アメリカは、日本車の参入で自国の産業発展に失敗。アメリカ資本独占の時代が衰退へと向かう。
ロンドンでは、経済の停滞と物価の上昇が併存。増加する失業率に対して、賃金や物価は値上がりし、抗議デモが激しさを増す。財政破綻の末、国際通貨基金から融資を受けることに。
1981年、アメリカではレーガンが第40代アメリカ大統領に就任。スト参加者をクビにするなど、労働者への厳しい政策を打ち立てる。
金融緩和で、カードローンを始め借金が気軽に出来る時代へ。更にグローバル化で、より安くより早く買えるカード支払い、借金の膨らみで返済不能へと陥る。
2008年、アメリカの投資銀行、リーマン・ブラザーズ・ホールディングが破綻。世界規模の金融危機となったリーマンショックだ。先進国のシェアが低下、中国を中心とした新興国のシェアが上昇。世界経済の勢力図が変化していく。
静かなクーデター。資本主義のもと、市民が権力を持ち個人の自由を尊重する民主主義を利用し、一部のエリートがお金で政治を買うようになる。メディアを利用し、政治界に顔を利かせのし上がった、第45代アメリカ大統領。資本主義が生んだ怪物、あの男が君臨する。
現在、IT企業の凄まじい上昇は、タックスヘイブンを利用した大金を稼げる仕組みを作り上げた。税金を支払わない企業と国税局との対立。
「頑張れば誰でも金持ちになれる」はウソだ。一般人は、働いても賃金は上がらず、国からの充分な補償も受けられず、税金は上がるばかり。会社に所属しながらもフリーランスのような安定しない暮らし。
資本の成長率(年4~6%)は、経済の成長率(年1.6%~)よりも高いという調査結果も。社会権力の集中だ。人々の怒りは、差別や移民叩き、政治デモへと向けられる。時代が逆戻りしている。
ITの発達により、更に失業率が高まると思われる未来に、資本の平等を考え直さないととんでもない格差社会が待っているだろう。
映画『エリジウム』(2013)では、資本家が住む豊かなスペースコロニー「エリジウム」と、荒廃した地球に住む貧困層に分けられた世界が描かれていますが、そのような未来を迎えないために、まずは資本に興味を持ち、仕組みを知り、国のトップを自分たちで選びましょう。
感想;
「資本主義の特徴は、資本の効率的な配分であり、公平な配分を目的としていない。」とあるように、資本主義は18世紀後半のイギリスでおきた産業革命をきっかけに成立し、貴族など一部の裕福層が資本を蓄え国を支配していた。その後、自由な経済活動により所得格差が縮まり所得分布が平等な社会になると期待されるが、現代でも一部のエリートに資本が集中する格差社会は変わっていない。
また、「富の不平等は、干渉主義(富の再分配)を取り入れることで、解決することができる。」については、世界大恐慌、2つの世界大戦を経ても、富の再分配にはならなかった点から、我々庶民は社会の仕組みを学び、(正しい)国のトップを選び資本主義社会を再構築する必要があるのです。
日本については、他国に比べると貧富の差がなく、社会保障等で貧困を減らしてきたように見えますが、実際は高齢化社会、インフレ対上がらない賃金、地域格差、ひとり親世帯の所得格差、教育格差などで貧困層の拡大が問題となってきています。他人事ではないのです。
ところで、本作中にカリフォルニア大学の心理学教授による人生ゲームを使った実験が紹介されます。金持ち役と一般市民役に分かれてプレイ。金持ち役は最初からサイコロを2個振ることができ、一般市民役は1個振ることができるというもの。サイコロを振れば振るほど、人生に差が出来ていきます。
金持ち役は、設定上最初からサイコロを2個持っていただけなのに、ゲームに勝ったのは自分の実力であるかのように傲慢な態度をみせます。自分は他人より優秀であると勘違いしているようでした。これは非常に恐ろしい心理状況です。
現実社会でも、富裕層は資産を持てば持つほど、他人に平等に分けることなく、さらに資産を増やそうとします。本作に出てくるタックスヘイブンの話はその一例です。
「資本収益率(r) > 経済成長率(g)」、FIREを目指す者には馴染みのあるものですが、「資本の分配」、考えさせられます。
以上、映画「21世紀の資本」についてでした。
この記事を読むことで皆様のFIREマインドの参考になると幸いです。
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